昼食後。

もぐもぐと、銀時が何だか嬉しげに口を動かしている。
そしてそれを飲み込んで、また新しいお菓子に手を伸ばす。
は、昼食を十分な量用意した筈なのだが、銀時が言うにはデザートは別腹なんだそうだ。

いつまでたっても菓子に伸ばす手を止めようとしない銀時の様子を見てが言った。


「……食べすぎです」
「別にいつも通りだろ」
「いつも食べすぎなんです」
「銀さんこれでももう十分我慢してますぅ」


銀時が口を尖らせながら言い返す。は思わず小さなため息をついた。


「片付けてきますね」


そう言うとは暫く前に空になった食器類を重ねて持ち、台所へと移動する。
恋人からため息をつかれる程大の甘味好きの当人は、が食器を洗っているであろう音を耳にしながらじっと菓子を見つめる。当然のことながら、恋人にため息をつかれて気分が良くなる筈などなく。
自分の糖分の摂取量について考えさせられたのか、もしくは自分の甘味好きを理解してもらう為の言葉を考えているのか。どちらにしろ黙って菓子を見つめていた。そして暫くしての居る台所へと向かう。

恋人は自分とは違い働き者で、慣れた手つきで皿の汚れを落としていた。
銀時はそんなの後ろに立つと、その腰に腕を回して首筋に顔を埋める。


「どうしました?」


手を休めることなくは口を開く。
銀時は、の腰に回した腕に、若干力を込めながら言った。


「糖分足りないと銀さんお前の事襲っちまうかもしんねーぞ、こんな風に」
「……早く、糖分の取りすぎで使い物にならなくなるといいですね」
「……は?」


何に対して使い物にならなくなるといいと言ったのか。話の流れからして自分にはあまり良いことではなさそうだ。銀時は若干顔を引つらせた。


「知らないんですか? 糖尿病になると勃起不全になりやすいんですよ」
「……………」


自分の知らない情報に呆気に取られて、少しの間何も言えなくなってしまった。
そんな中、は優しげな笑みを浮かべながら言う。


「でも、銀時さんが気にしないのなら何も言いません。 どうぞ好きなだけ食べてください」
「この年で勃たないとか駄目だって。 今が一番盛ってる時期だろうが!」
「知りませんよ。 嫌なら甘いものを控えればいいでしょう」


先ほどの笑みから一転、いつも通りの無表情に戻ったの口からはため息が漏れた。
銀時はそれを気にしていないのか、特に掘り下げずに話を切り替える。


「つーかさっきお前何っつった!?可愛い顔してなんつー卑猥な事口走ってんのおおおお!?………いや、でもそれはそれで……」
「勝手に妄想しないで下さい、生理現象を口にしただけです。 卑猥な事にしか捉えられない貴方のくるくる頭に不安を覚えます」
「今俺の天パ関係ねーだろうが!!」
「耳元で喚かないで下さい。 五月蝿いです」


銀時からは表情こそ見えないものの、その声音は冷ややかで、眉間に皺を寄せているんだろうと簡単に予想できる。
実際は眉を寄せ、いかにも鬱陶しいと言った表情だ。
これ以上の機嫌を損ねない為に、なるべく静かな口調にするよう気をつけながら銀時は再び口を開く。


「ちょっ……今のうるさいって絶対漢字だったろ、しかも五月の蝿って書く方」
「はいはいそうですね」
「おま、返事が適当すぎだろ。 銀さん傷つくんですけどー……」


既に己の腕の中にいるの首元に頭を埋め、すっかり意気消沈した声で言う。


「あの、邪魔なので少し離れてくれませんか」


の言葉はそれに更に追い討ちをかける。無論、発言した本人にはそんなつもりは微塵もなかったのだが。まるでグサリと言葉の矢で心臓を貫かれた様な。


「あーあーあーあー、今銀さん死んだから。ちゃんの酷い一言で死んだから。もういないから」


とうとう銀時は拗ねてしょうも無い事を言い出す。


「そうですか、それは残念。 でもその分食費が浮くってことですよね、」
「え……?」
「……………」


それっきり、は何も言わなくなった。
銀時が戸惑いつつも声をかけても無視。ちょっかいを出しても無視。ひたすら無視。無視無視無視。
我慢できなくなった銀時はパンパンッと2度、大きく手を鳴らした。


「ハイ!もう銀さん生き返りましたァ!完全復活ですゥ!!!」
「あぁ、もう生き返っちゃったんですか?」


はクスクスと笑う。


「おま……もっと死んでて欲しかったワケ?」
「死んでいたらもう糖分を取り過ぎることもないでしょう?」
「……何、ちゃんったらアレなの、結構銀さんのこと想ってくれちゃってる感じ?」
「当たり前でしょう」
「はいはいそーですね、どうせそういうと思っ……今なんつった?」
「当たり前でしょう」
「お、おぉ……忠実な再現サンキューな……でもそんなに想ってくれてたのか、そうか」


予想外の言葉に自然とあがる口角。と、同時にゆるい決心。


「決めたわ、銀さんお前の為に甘いモン控える」
「……本当に?」
「おう、」


普段無表情でいる事が多いだが、この時は若干嬉しそうな表情で銀時を見つめた。
その表情の効果は大きかったのだろう。言った直後に、やっぱり無理かも。などと考えた銀時に「Yes」の返事をさせた程。


「頑張ってくださいね」


言うとは薄く微笑んだ。もう今更後戻りはできない。




糖分禁止令
(まずは食後のデザートから減らそうか)

 

 

 

*110808
普段自分に興味ない様に見える人が、ちゃんと心配してくれてるって実感すると嬉しいですよね。
それから主ちゃんに下ネタっぽいこと言わせてみたかった。本人はいたって真面目です←重要

そしてまた会話多いしょぼん

 


 

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