部活も終わり片付けもほとんど済んだ頃。
ギャラリーに入ってしまったボールを取りにいったちゃんが、まだ降りていないのを見て俺は階段を登った。
ちゃんは柵にほとんど体を預けて、下の様子を伺っているみたいだ。


「ボールは?」
「もう落とした」


ちゃんはこっちを見向きもせずに、けれど俺だと気づくとしっかり嫌な顔をして返事をした。酷いなぁ。
彼女がさっきからずっと口を尖らせて見つめている先では、岩ちゃんとちゃんが一緒にネットを畳んでいる。
あの2人最近仲良いよね。っていうかもう誰から見たって両想いなんだから付き合ちゃえばいいのに。


「で、ちゃんはどうしてそんな難しい顔してるの?」
「……岩泉にとられる」


深刻な顔してなに言うかと思えば。
ちゃんは難しい顔のまま、「嬉しそう」って呟くみたいに言った。
ちゃんの隣で岩ちゃん達を見ていたら、突然背中に衝撃。ばしんと良い音をたてた。


「痛っ!何!?」
「別に」


ちゃんの視線は変わらず岩ちゃん達に向けられ、背中への攻撃はべしべしと続いた。けれど痛かったのは初めの一発だけで、
それ以降は岩ちゃんのボールに比べればちっとも痛くはない。


ちゃんさぁ、」
「何」
「寂しいんデショ、ちゃんがかまってくれないから」
「……うっさい」


言えばピタリと八つ当たりをやめて、柵の上に組んだ腕に顔を埋める。
まあそうだよね、ちゃんはちゃんの1番の仲良しさんだから。


「気持ちは分かるけどねぇ」
「適当言うな」
「適当じゃないよ」


下では畳み終えたネット達を脇に抱えた岩ちゃんが、手伝ってくれたちゃんの頭をぽんぽんと撫でて、2人仲良く体育倉庫へ向かって行った。


「だって俺もちゃんに岩ちゃん取られてるんだもん」


そこではじめてちゃんが俺の方を見た。そして数秒沈黙した後、うーとかあーとか唸ってから「うあー!」って両手を目一杯伸ばして、
俺の髪をかき混ぜるみたいに豪快に撫でた。


「わああちょっと!セット崩れちゃうでしょー!」
「うるさいばか!むかつく!」
「理不尽!」


俺たちが騒いでる間に片付けを終えたらしい岩ちゃんが、「体育館閉めるぞ」ってでかい声で俺たちを呼んだ。
ちらほらいた他の部員達も、皆いつの間にかいなくなっていて、静かな体育館に岩ちゃんの声がよく響いた。
今降りるって返事をして、ちゃんに降りようかって声をかけようとしたけどちゃんはすでに階段の方に向かって歩き始めていた。ですよね。

暗い階段に足音が2つ。
体育館の入り口では、岩ちゃんとちゃんが俺達が来るのを待ってるんだろう。
先に下り始めたちゃんが1番下に着いて、そのまま2人の所に駆け出して行きそうだったから、


「ねえちゃん、俺と付き合わない?」
「はあ?」


振り向いたちゃんの「ありえない」って言いたそうな顔。

先は長そうだなあ。


君メートル


*140425

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