自分の声が、やけに大きく響いて聞こえた。


「羨ましくて仕方ないんだ」


タイガの事も、アツシの事も。
どんなに手を伸ばしても届かない。そもそも同じラインに立っていないんだから、届くはずもない。
分かってる。分かっているのに、手を伸ばすのをやめられないんだ。
たとえ手足を切られたとしても俺は、手の届かないその場所を目指すのをあきらめる事なんてきっとできない。

は黙って聞いていた。相槌すら打たずに。
俺はこんなにおしゃべりな人間だったろうか。独り言でも言っているような気分で、ただただ話し続けた。
心の奥底に沈んでいた汚泥のような感情を、言葉にしてひとしきり吐き出したところではっとした。

は何を思っただろう。こんな話を聞いて、こんな俺を見て。
彼女の瞳に今、どんな風に俺が映っているのか知るのが怖くて、顔を上げられない。


「……嫌だろ、こんな暗いヤツ。 俺だって嫌だ」
「嫌じゃないよ」


は言い切った。一寸の迷いも含まれていない声は凛として。
静かで落ち着いた、けれどはっきりとした声で彼女は続けた。


「私もそんなに明るい方じゃないし、」

「少しくらい暗くても、真っ暗で何も見えなくても、並んで歩けたら幸せだなって思う」

「辰也さんがどんなに自分を嫌っていても、私は貴方が好きだよ」


顔を上げようとしたら、頭を胸元に抱き寄せられた。
驚いたけれど、彼女のぬくもりと心音を感じた時、なんだかひどく安心して、同時に初めて自分が泣いていることに気付いた。

は気付いていたのだろうか。


「君には格好悪い所を見せてばかりだ」


頭をなでる彼女の手があまりにも優しくて、涙が止まらなくなりそうだった。
情けない、本当に情けない話だけれど。

「ねえ」彼女が言う。俺の考えてることなんてすべて見抜かれているような気がした。


「辰也さんは素敵だよ、とっても」


そこから先の事は、あまり覚えていない。


次の日は撫でられる感覚で目が覚めた。
おはよう、が俺に微笑みかける。
愛しさと安心と不安がないまぜになったような、よく分からない感情が込み上げてきて、彼女の腰を抱き寄せた。
もう少し、このままでいたいんだ。
聞こえるか聞こえないかの大きさの声でそっと呟く。返事は帰ってこなかった。
けれどの手は優しいまま、変わらず俺の頭を撫でている。












 
*130224

 
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