寒い寒い冬が終わって、ようやくコートがなくても平気なくらい暖かくなった。窓の外の雲がわたあめみたいにもこもこしてて、おいしそう。
とかなんとか考えてたら、廊下の角で思いっきり人にぶつかった。わあっ!て高い女子の声が上がる。
当然オレの方がでかいから、相手ははね飛ばされたみたいだった。そっちに視線を落としたら、周りには赤、緑、白、黄色……たくさん飴が散らばってて
なんか綺麗で。
女子は尻もちをついたままこっちを見上げる。そして大きな目をドーナツみたいにまんまるくして、一言。


「でかっ!!」


身長に驚かれたりじろじろ見られるのは慣れてるし、いいんだけど、叫ばれたのは初めてだったよ。
そのあとすぐに立ち上がって飴を広い集め始めて、手伝ってあげたらお礼にって飴をみっつくれた。ブドウとリンゴとソーダ味。
それ以来ちんとはよく話すようになった。一応ひとつ先輩なんだけど、親しみやすいというか、子供っぽいというか、先輩って感じが全然しないの。
お菓子がスキで、めんどくさいのはキライで、中学まで東京に住んでて、それってオレとおんなじで、親近感っていうの?沸いたから、すぐに仲良くなった。
室ちんと同じクラスなんだって。だからオレとちんと室ちんの三人で過ごすことが多くなって、そのうちちんはバスケ部のマネージャーになった。
まあ、なればって言ったのオレなんだけど。

夏には三人でお祭りにいったり、夏休みの宿題したり、部活の練習とか合宿があったりして、あっという間に終わった。
秋になって、またコートが欲しいくらい空気が冷たくなってきた頃。
何となくだけど、ちんの元気がないなって感じることが多くなった。お菓子あげたらいつも通りのちんになるから、お腹空いてるだけかと思ってたけど、やっぱりなんか違うみたいで。
クラスでもそんな感じなのか室ちんに聞いたみたら、元気ないみたいらしい、話しかけても素っ気ないんだって。
三人でいるときはそんなことないのに二人きりだとダメって、それってなんか、前にちんが読んでた少女漫画みたい。
室ちんに、ちんは室ちんの事好きなんじゃないのって言ったら、「それはないよ」って。


「わかんないじゃん、好きって言われたらどうすんの」
「オレの事より、アツシはどうなんだ?」
「なにが」
に好きって言われたら」
「それは、」


言いかけたところで、室ちんの視線に気づく。
からかわれてる。あー最悪。


「……室ちん嫌い」
「それは困ったな」


嘘ばっかり、笑ってるじゃん。



*



部活終わり、ちんはドリンクのボトルを洗いに行った。こんな寒いのに外で水仕事とか、マネージャーって大変だなって思う。
さっさと着替えてちんの所へ。寒くて制服のポッケに手を突っ込んだら、部活前から入れっぱなしだったホッカイロが、蒸かしたての焼きいもみたいにあつあつになってた。

オレに気づいたちんは、ボトルを洗う手を休めずに、早いねって一言。鼻の頭が赤くなってる。


「最近元気ないの、何で」


ちんはちょっと驚いたみたいだったけど、すぐに元気だよって返ってきた。
水を止めて、ボトルを軽くタオルで拭いて、カゴに入れていく。それが終わると、ひゃー寒い!って、捲っていた袖を元に戻した。手が隠れるようにセーターを引っ張ってたから、伸びるよって言ったら、古いやつだからいいの、だって。
それでもまだ寒そうに手に息をはいてたから、ポッケの中のカイロをちんの目の前に出した。


「くれるの?」
「嘘つきにはあげない」


そう言ったらちんは困ったように笑って、少し考えたあと、話してくれた。
なんでも、仲良くしてた友達が、室ちんの事が好きらしくて。(室ちんモテるからなー)
オレも含めて三人で一緒にいることの多いちんは、クラスでも室ちんと良く話すんだって。内容は部活のこととかオレの話とからしいんだけど。
(オレの話って何って聞いたのに流された)
それが原因で、その仲良くしてた女子に嫉妬されたちんはその子にシカトされ……とまではいかないけど、ぎくしゃくしてるらしい。


「話したからそれ頂戴? もう手が凍りそう」


差し出された、赤くなって少し震える手の上にカイロを落とす。ちんがあったかーいとか言ってる間に、ボトルの入ったカゴをとって、先に部室へ向かって歩き出した。
早足で追いかけてきたちんが、オレの顔を覗きこむ。


「何怒ってるの?」
「別に怒ってねーし」
「怒ってるじゃん!」


話を聞いてたら、前に廊下で女子が集まってコソコソ楽しそうに誰かの悪口を言っていたのを思い出して、ちんも、ちんの知らないところであんな風に笑われてるのかもしれないって考えたら、ムカついただけだし。怒ってない。

しばらく黙って歩いていたちんは、元気のない声を出した。


「私、二人と一緒にいない方がいいのかなぁ」
「やだよ」
「え?」


はじめて会ったときみたいに目をまあるくして、ちんはオレを見上げた。
どうして?って言いたそうな顔。


「だってオレ」

ちんスキだし」

「室ちんも、部活のみんなも、ちん好きだよ」


自分でもワケわかんないうちに早口で言い切って、ちんもぽかんとしてた。
でも、どんどん表情が明るくなって、お菓子あげる時よりも、試合で勝ったときよりも、ずっとずっと嬉しそうに笑った。


ちんは違うの?」
「違わない、みんな大好き!」


多分、にやけてるのを抑えようと、左手の袖で口許を覆って、もーとかなんとか言いながら、右手ではオレの腕をぺしぺし叩く。


「肉まんおごってあげる!」
「んーあんまんがいいなー」
「じゃあ一個づつ買って半分こしよ!」


部室では着替え終わった室ちんがオレ達を待ってた。
ちんが室ちんを見るなり、思い出したようにピザまん!って叫んだ。室ちんはびっくりしてたけどちんは笑顔でオレの方へふり返って。


「三分の一ずつだ!」
「あー、うん。 そうだね」
「何の話?」
ちんがおごってくれるらしいよ」


室ちんに説明してる間に、ちんはオレの鞄と自分の鞄を持って来て、早く行こう!って急かした。

最近日が落ちるのが早くなってるから、外はもう暗かった。ここは東京と違って街灯とか少ないから余計暗いのかもしれない。
学校からコンビニまで距離あるし、駅も遠いし、冬は寒いし、最初は嫌だったけど、最近はそれもまあいいかなって思う。

三人で食べた肉まんはおいしかった。あんまんもピザまんも。
ちゃんと分けるのがむずかしくて大変だったけど、ちんも室ちんも大きいの食べていいっていってくれたから、オレは一番大きいやつを食べた。
帰り際、ちんが、もうちょっと寒くなったらおでん食べよう、って。おでんは種類があるから部活の皆も誘って、いっぱい買おうって話した。

オレ、寒いのキライだけど、それはちょっと楽しみだなぁ。




ポッケの中にメと


 
*130118

 
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