カーテンの隙間からぼんやりと街灯の光が差し込んでいる。
真夜中だというのに、外が暗くなる気配はない。こんな時間に目が覚めたのは久しぶりだ。
じっとベッドに横たわっていてもきっと眠れないだろう。私はベッドから降りた。なんとなく外の空気を吸いたくて。
窓を開けて肺一杯に空気を吸い込む。冬もそろそろ終わりに近づいてきたとはいえ、夜は冷える。

ふと空を見上げたら綺麗な月がこちらを見下ろしていた。星はあまり見えない。
街にいるうちの何人が、あの満月に気付いているんだろう。
しばらくぼうっと月を眺めていたけれど、とうとう寒さに耐えきれなくなって窓を閉めた。
閉ざされた空間で、時計の秒針だけがカチカチと一定の間隔で音を鳴らしている。
暗いこの部屋からあの明るい街を眺めていたら、急にひとりぼっちになったような寂しさが込み上げてきて、逃げるようにベッドに戻った。
まだ眠れる気はしないけれど、布団にくるまって、夜風で冷えた体を温めるのだ。
東京ですらこんなに寒いのに、辰也さんのいる秋田はどのくらい寒いんだろう。
この前メールをした時には、雪がたくさん降っていると言っていた。

辰也さんはまだ起きているかな。無性に彼の声が聞きたい。
数分悩んで、結局メールを送った。返事がこなければ諦めて眠ろうと決めて。
じっと画面とにらみ合っていたら、着信音が鳴った。待ち構えていたのに、いざ連絡が来ると驚いてしまう。
メールではなく電話だったことも原因かもしれない。慌て気味に通話ボタンを押して、携帯を耳に当てる。
もしもし。意図して小さくしようとしたわけでもないのに、自分でも意外なくらい静かな声がでた。


「どうしたの、こんな時間に。 珍しいね」


久しぶりに、彼の声を聞いた気がした。最後に通話した日から、そんなに経っていないはずなんだけど。
優しい彼の声が、嬉しくて仕方がない。自分の声が弾んでいるのがわかる。
真っ暗な部屋の中、二人きりで内緒話をしてるみたいだ。このまま夜が明けなければいいのに。


*


「……そろそろ寝ようか、」
「……うん」


ぷつりと、会話が途切れた。本当はもっともっと話していたいけれど、そういうわけにもいかない。
彼は明日も朝早くから練習があるし、私も明日は早く学校に行かなくちゃいけないから。


「ねえ辰也さん、」


でも、おやすみなさいを言う前に、もう一つだけ。


「春になったら、会いに行ってもいい?」
「俺がそっちに行こうと思ってたんだけど……」
「だって、辰也さんは冬にこっちに来たでしょう」
「危ないよ、女の子が一人で遠くまで来るなんて」


心配性だね
と笑ったら、そりゃあ心配するよ、と困ったように言われた。
彼の言葉がくすぐったくて笑ってしまう。
結局、どっちが会いに行くかはまた今度ゆっくり話すことになった。
とはいっても私は引くつもりなんて毛頭ないし、きっと彼もそう簡単に引いてはくれないだろう。


「おやすみなさい、辰也さん」
「おやすみ、


電話を切っても、だらしなく緩んだ表情はしばらく元に戻らなかったけれど、その後はすんなり眠りにつくことができた。
辰也さんにおやすみと言ってもらえたからだと思う。たった一言でも、私はこんなにも幸せになれる。彼の言葉なら。




stardust call






 
*130226
香月ちゃんの誕生日に投げつける。っぽーい!
 大分前にリクエストを頂いていた氷室さんです。遅くなってごめんなさい、もしかしたら忘れられてるかもですが愛は込めた。
 これでもかってくらいです、胸やけ起こすんじゃないかというほどにです。ええ。
 お誕生日おめでとうございます!大好きです!

 
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