ぎらぎらと眩しい太陽が肌を刺す。
人間も動物も、この暑さには相当参っているようだ。
散歩中の犬は、飼い主がリードを引っ張っても木陰から動こうとしない。木に留まる鳥も心無しかだるそうに見えた。
人間は誰もが手足の出る格好をして、人によっては帽子を被り、ほとんどの女性は紫外線対策か、日焼け止めの独特の臭いを纏っている。
どんなに肌を出したところでやはり涼が恋しいのだろう、誰もが次から次へとクーラーの効いた店内に吸い込まれていく。
この店も例外ではない。休日だという事も相俟ってか、多くの人で賑わっている。

最近は特に気温が高くて、ジュースやらアイスが飛ぶように売れていく。

店にとってはかなりありがたい話だ。
店員たちはどの人にも愛想よく対応している。地声よりもオクターブ高い声。






……カエルだ。
店の外にカエルがいる。
いや、正確には大きなカエルの被り物を被った青年。
あんな、見るからに通気性の悪そうな物を被っていて暑くないのだろうか。
店員たちも彼が気になる様で、気付かれないように彼を見てはコソコソと話している。客も例外ではない。

彼は店の中には入ってこなかった。
誰かを待っているようだ。
レジに並ぶ人の群れ、この中に彼の待ち人がいるのだろう。時折店内を覗いてくるのがその証拠。

彼をマスコットか何かだと思っているのか、小学校低学年程の子供がじっと彼のことを見つめている。
彼自身はそれに気が付いているのかいないのか、空を仰いで太陽に目を細めていた。


「2.2ユーロになります」


店員の声に、はっと我に返った。
そうだ、彼を観察している場合ではない。そろそろ行かなければ。

目当ての物を購入して、にこにこと嬉しそうな女性と同時に店を出る。
外は、中から見るよりもずっと暑かった。ものの数秒で体中から汗が噴き出る。この暑さ生み出している太陽が憎い。


「遅いですよー、待ちくたびれましたー」


カエルの彼がこちらに近づいてくる。
……え?
そんな馬鹿な、と思ったのもつかの間。
彼の待ち人はどうやら自分の後ろにいる女性だったようだ。


「並んでたんだもん、私のせいじゃない」
「レジの前でもまだ悩んでたくせにー」
「じゃあフランも来ればよかったでしょ」
「この頭だといろんな人からジロジロ見られるんですよー」


カエルの彼はフランという名前らしい。
カエルを被っている事で自分が目立っているという自覚はあるようだ。


「いいじゃん別に」
さんは被ったことないからそういうこと言えるんですよー」
「お前子供の時もりんご被ってただろ」


何かを被っていることには何か深い理由があるのだろうか。

彼からは、とてもそんな深刻な問題を抱えているようには感じられないが。
少々彼の過去が気になった。


「りんごとカエルじゃ全然違いますからー」
「意味わかんないから。 どっちも目立つだろ」


そういって、はフランのカエルを小突いた。


「気分ですよ気分ー。 あ、なんだったら試しに被ってみますー?」
「やだよ、そんな暑そうなの」
「いいじゃないですかー、女の人ってお揃いとか好きでしょ?」
「私は別に好きじゃないし……って、あー!」


急にが叫んだ。
これにはフランも驚いたようで、うざったそうになんですかー、と彼女に尋ねる。

は手にしていたカップを指さして言った。


「アイス! 凄い溶けてる!」
「あー、まあこの気温ですからねー」


酷く悲しそうな表情のと、先ほどから殆ど変らない表情のフラン。
彼なりに慰めようとしたのだろう、フランがの頭に手を伸ばした時だった。


「バカ!」


の声に、フランは伸ばしかけていた手を物凄い速さで引っ込めた。
そのおかげか、彼女は彼の手には気がついていない。


「えー……それってミーのせいなんです?」
「お前がカエルとかりんごとかくだらない事言ってるからだろ!」


全く理解できないと言うように、フランは怪訝な顔をした。
それもそうだ。全く関係がない自分ですら理不尽だと感じる。
の行動は八つ当たりだとしか思えない。
彼女は口で当たるだけではすっきりしないらしく、フランの背中を叩いた。
ばちん、いい音がする。


「痛っ、なんでそうやってすぐ暴力に走るんですかー」
「何言ってんの、私別に力入れてないし。 音はよかったけど」
「ほら、見てくださいこの涙」
「全然ないじゃん」
「まあそれはともかくー、さんって実は結構な馬鹿力ですからねー?」
「そんなことないもん」
「ありますー。 この前背中蹴られた時なんか骨折れるんじゃないかと思いましたー」
「私か弱いからそんな力ないわー、人違いじゃないの」
さんがか弱かったらミーは生まれたてのカエルですよー」
「おたまじゃくしじゃん、それ」


言い合いは続く。
二人ともよく口が回る回る。聞いてるこっちが暑苦しい勢い。
少し落ち着いたかと思えば、またすぐに別の話題で盛り上がる。
もう既に私のことなど忘れているのだろう。二人ともこちらを見向きもしない。
わかった、もうわかった、わかったから、早く食べてくれよ!






(このままだとジュースになる!)





*120603

ちょっとやってみたかったアイス視点。
結構早く書き上げたよ……!ふおお……
言い合いさせるのがものすごく楽しかった。

 

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