"ぬるい"と"あつい"の、中間位の温度。
そんな丁度よく心地の良いお湯に身体を浸す。肩までゆったりと。
行為後の気だるさの残った身体には普段よりも更に気持ちがよく感じて、は眠ってしまいそうだった。

うとうと、うとうと……

余計なことはなにも考えずに、静かに目を閉じる。シャワーの音が耳に心地良い。きゅ、と蛇口を捻る音と共に、水音は止んだ。
は閉じていた目をそっと開く。その目にはゆらゆらと揺れる水面が写った。入浴剤の乳白色。


、眠いんですか?」
「いえ……大丈夫、です」


上から降ってきた風の優しい声に、は顔を上げた。そして浴槽の端に寄り、風の入るためのスペースを作る。
からみて後方にできたそのスペースに風が入り込む。湯が浴槽から溢れた。


「……少し、無理をさせ過ぎましたかね」


申し訳なさそうに微笑んで、風は言う。は小さく首を横に振った。その表情は変わらず眠そうなまま。
風はの濡れた髪を撫でる。優しく、柔らかく。は心穏やかに再び目を閉じて、風の手を受ける。

暫くそうしていると、急にの首がかくん、と大きく振れた。自身も驚いたのだが、それ以上に驚いたのは風の方。


「大丈夫ですか?」


心配そうに尋ねる風に、は無言で頷いた。眠気を払うように目を擦っても、彼女はまたうとうとし始めてしまう。
それを見かねた風が、に声をかけた。


「そろそろ上がりましょうか」
「……もう少し、」
「ですが……」


風は困った。こんなにも眠そうなは、まだ湯から上がりたくはないらしい。
彼からは彼女の背中側しか見えないが、それでも彼女が今、眠気におされているのは明らかだ。


「ではせめて、どうぞ私に寄りかかってください」


言うと、風はの肩に手を回し、抱き締めるように彼女を自分の方へと引き寄せた。
は若干の驚きの表情を見せる。
背中を彼に預けたまま、不思議そうに風を見上げた。の表情は相変わらずとろんと眠そうで、風はその表情を「可愛らしい」と感じながら微笑む。


「あの、」


が体制を変えようとみじろいだ。風は彼女の身体に回していた手をほどく。
浴槽の中で、はくるりとうまく体制を変えた。
風と向かい合い、膝の上に跨がり、ぴったりと風に寄り添う。彼はそんな彼女の背中に手を回し、子供をあやすように撫でた。
は再び、眠気の波にのまれそうになる。

うとうと、うとうと……

途中でハッとなって起きては、またうとうと。それを何度か繰り返す。

その後、何を思ったのかは風の肩に手を置いた。風の胸に預けていた頭をあげ、彼の耳元へ口をよせてゆっくりと口を開く。静かな、落ち着いた、それでいてやはり眠そうな声。


「風さん」
「はい」
「大好き……」
「……愛していますよ、


風は一瞬目を丸くして、次に微笑む。そうして、元の体制に戻った の額に口付けを落とした。
は先程から変わらず眠そうなまま満足そうに、口元にゆるやかな弧を描いて、もう一度ぴったりと風に寄り添った。






ぽかほか
(あなたとわたしと、おふろのおはなし)









*120207
一緒にお風呂はほんわかしていて好きなネタです。
風さんは紳士で格好よくて素敵で、とにかくだいすきです。


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