子供の頃は、正直お姉さんというよりお兄さん的な存在として認識していた。
昔から綺麗な、整った顔をしていて、身体だってれっきとした女性だったが、それでも、幼い自分は兄のようだと思っていた。
彼女は非常にさばさばとした性格の人間で、同時にかなりのめんどくさがりで、口も悪かった。
三つ子の魂百までとはよくいったもので、それは全然変わらない。
むしろ、面倒くさいからという理由で誘いを断ることが多くなったあたり、悪化しているような気もする。
それでも彼女は子供は嫌いではないようで、幼いオレやイーピン、フゥ太さんの面倒をよく見てくれていた。
あの頃の一番の問題児は、当時を知る人物ならば誰もが口を揃えてオレだと言うだろうが、オレはそのお陰で、彼女に沢山面倒を見てもらえたのだ。
と、何も考えていなかった頃の自分に少し感謝している。
元々、ボンゴレの友人の彼女。
学生時代には獄寺氏、山本氏らと一緒に、若きボンゴレの部屋によく勉強をしにきていた。
彼女は頭が良く、獄寺氏と二人、ボンゴレと山本氏に勉強を教える側だった。
彼ら四人で騒いでいる印象が強くて、あまり遊んで貰ったという記憶はないが、オレはいつも彼女に泣きついていた気がする。
その度に、涙と鼻水でぐちゃぐちゃのオレの顔を「めんどくさい」だとか、「汚い」だとか文句を言いながらも拭いてくれたのだ。
ありがたくもあり、恥ずかしくもあり、申し訳なくもあり……複雑な記憶だ。
それでも尚泣き止まない時には「男がそんな簡単に泣くな!」と喝を入れられた。
ぴたりと泣き止めば「いい子」と笑い、わしゃわしゃと豪快に頭を撫で、大好きなブドウの飴をくれるのだ。
飴欲しさに何度嘘泣きを続けた事か。……このことは本人に言うと殴られそうだから黙っておくが。
年頃になって彼女の名前を呼び捨てからさん付けに変えたとき、彼女は目を丸くして、「気持ち悪い!」と叫んだ。オレは泣いた。
背を抜いた日には、酷く悔しげに「大きくなったな」と言われた。何だか嬉しくて、やっぱり少し泣いた。
こうやって振り返ってみると、オレは結構長い時間を彼女と過ごしている。
思い出の余韻に浸りながら、掃除中に見つけてつい開いてしまったアルバムを閉じる。
いつまでも寄り道をしていないで、そろそろ掃除に戻ろうとした時、携帯が鳴った。
仕事の話だろうか、ボンゴレの名前が表示されたディスプレイを確認して、通話ボタンを押す。
『ランボか!?』
「そうですよ。 どうしました、そんなに慌てて」
『大変なんだ、が――』
そこから先はあまり覚えていない。
ボンゴレが詳細を話していた気がするけれど、何も頭に入ってこなかった。
嘘だ、昨日だってあんなに元気だったのに、そんな、
とにかく走った。走って走って、医務室まで。
急げば急ぐほど足がもつれて、思うように先へ進めない。
広大なアジトを、こんなにも鬱陶しく思ったのはこれが初めてだった。
*
「さん!」
勢い良く扉を開くとさんはきょとんと此方を見つめた。
ベッドの隣には電話をかけてきたボンゴレ、そして獄寺氏と山本氏。
「何、ランボも来たの?」
「た、倒れたって……!」
「大丈夫大丈夫、ただの寝不足」
ヘラリと笑うさんと、
「ごめんなランボ、オレの早とちりだったみたいで」
「申し訳ありません十代目! オレの説明が至らないばっかりに……!」
「まーまー、いいじゃねーか。 無事だったんだし」
子供の頃によく見た光景。
「ほ、本当になんともないんですか?」
「うん平気。 今までこき使ってたからって、ボスが休みくれるらしいしー?」
「ご、ごめんってば」
にっこりといたずらに笑うさんに、ボンゴレもたじたじといった様子だ。
ああそうか、元気なのか、なんともないのか。
そう実感したら、一気に全身の力が抜けた。
「よかっ、たあ……ううっ」
「あーもー! やっぱり泣いた!」
「だっ、て、」
「ほら、これあげるから!」
そういって、握らされたのは例のブドウの飴。
頭をなでる手は、オレの方が大きくなった。
背も、今は大分オレの方が高い。
別にもう飴がなくても平気だけど、
「もう泣くなよ?」
ああ、でもやっぱり、格好いいな。
ピオーネの記憶
(変わらないなあ)
*120522
ふと思いついたネタ。
ランボさんは一時期夢小説をすごく沢山あさってた程度には好きです。