今、午前二時半。
私、ゼリーが食べたいの。味はそうだな、リンゴかオレンジ。
確か冷蔵庫に、貰い物のゼリーがいくつかあった筈。

眠い目をこすって、ベッドを降りた。
身体が汗でべた付く。起きたついでにシャワーでも浴びようか。
ぼんやりと思考を巡らせて、備え付けの小さな冷蔵庫を開けた。

……ない。
開けてすぐの所に置いておいたゼリーはどこにもなくて、代わりに堂々と酒が居座っていた。おい、私は未成年だぞ。
そこまで考えて、私は重大なことに気が付いた。

同時に、頭上から聞きなれた声。


「人の部屋の冷蔵庫勝手に漁ってんじゃねぇぞテメェ」
「……今帰り?」
「あぁ」


なんと私はスクアーロの部屋にいたのだ。
寝起きで頭が正常に回っていなかったとはいえ、今まで気が付かなかったとはどういうことだ。
そうだ、喉が渇いていたということにしよう。
さすがに酒は飲めないので、他に一番近くにあったミネラルウォーターを取り出して、部屋の奥に戻る。スクアーロも私に続く。


「今起きたのかぁ」
「うん」
「寝すぎだろぉ」


ベッドの淵に腰掛けた。ぎしりとスプリングが鳴く。
時計に目をやり、ため息をつくスクアーロをよそに、体に水を流し込んでやった。おいしい。

そういえば、この部屋に来たのは何時だったか。そして私はどのくらい寝ていたのか。
ここでようやく、少しずつ覚めてきた頭で記憶を遡る。
仕事が終わったのが確か五時前頃で、その後すぐに此処に来た。
スクアーロはその時寝てたんだけど、気にせずに隣に潜り込んだ。
無駄に大きいベッドは、私が隣に入りこんでもまだまだ余裕があるくらいなのだ。

五時に寝たと仮定して、さっき起きたから九時間半?うん、確かに良く寝たなあ。
ペットボトルをサイドテーブルに置くついでに、ふと部屋の主に目を向けるとスクアーロは私の方を見てなにやら嫌な顔をしていた。
彼がこういう顔をする時は決まっている。勝手に部屋にはいってくるなとか、ベッドに入ってくるなとか、そういう事を言ってくるのだ。

あ、目が合った。


「あのなぁ、お前、勝手にベッドに入ってくんのいい加減やめろ」


ほら、ビンゴ。


「ちゃんとお邪魔しますって言ってるよ」
「そういう問題じゃねぇ!」


先に言っておくが、私は誰彼かまわず人のベッドに潜り込むわけではない。
正直な所、起きた時に私が隣で寝ている事に驚くスクアーロの顔が好きだ。面白い。
スクアーロもスクアーロだ。本気で嫌なら鍵でもなんでもかければいいのに、彼はそれをしない。だから私は好きな時に勝手に部屋に入るし、眠ければベッドにも潜り込む。


「ねースクアーロ、ゼリー食べたい」
「んなもんねぇぞぉ」
「私の部屋にある」
「なら自分の部屋に帰るんだなぁ」
「やだ。 あ、ちょっとシャワー借りるね」
「う゛お゛おい、それこそお前が部屋に帰れば済む話だろぉ」


スクアーロが言ってることが正論、そんなことは百も承知だ。
けど私はまだこの部屋に居たい。此処は何故か自室よりも落ち着くのだ。居心地の良いこの部屋が悪い、きっとそうだ。

自室の鍵を、スクアーロに投げ渡す。
そして私はベッドから立ち上がってバスルームへ歩を進める。スクアーロは私に待てと言ったが、待つわけがないじゃないか。


「冷蔵庫に入ってるから、リンゴかオレンジの持ってきて。 あ、スクアーロも食べたかったら、なんか好きなの持ってきていいよ」
「聞けぇ!」


スクアーロの声は途中でくぐもった。
と言うのも、私が脱衣所の扉を閉めたからだ。

私がシャワーを浴び終わって部屋に戻る時、スクアーロはバツの悪そうな表情で私を待っている事だろう。机にはゼリーとスプーンが二つずつ。

さて、彼がどのゼリーを持ってくるか予想しようか。
スクアーロはリンゴとオレンジのを持ってくるよ、きっと。いや、絶対。
気分屋の私が「やっぱりあっちがいい」なんて言っても対応できるように。
だから「やっぱりブドウがいい」なんて意地悪をしてみようか。それは流石にちょっと可哀相かな。
でも例えそんなわがままを言ったって、文句を言いながら、もう一回私の部屋まで取りに行ってくれるの。


だから、そうだな。優しいスクアーロには特別に、私のゼリーも一口食べさせてあげよう。


 




夜更けジェリー

                                 






*120724
全く書く気のなかったスクアーロ2つ目。
スクアーロさんは年下に弱いと思うの。
本当は漫画風ににしたかった。画力ェ……

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